
今回、拉致被害者のうち五人が「一時帰国」という名目であれ日本に帰国したことは喜ぶべきことである。
だが、そもそも指摘しておきたいのは一時帰国」という言葉のおかしさである。
拉致被害者は、凶悪な犯罪の結果として、北朝鮮に無理やり連れて行かれたのである。
本来あるべき姿は「原状回復」であって、それをあたかも里帰りのような「一時帰国」という言葉を使うべきではない。
拉致被害者の人たちは、犯罪の結果、一時的に北朝鮮にいただけにすぎないのである。二十四年という長い歳月がたっていても、そのことに変わりはない。そう考えれば、この五人をどう扱えばよいかは明白なはずだ。
政府の対応にも問題がある。
政府は当初、五人を北朝鮮に帰すかどうかを、本人や家族の意向を聞いて決めるといっていた。だが、これでは話にならない。
家族はともかく、本人たちは家族を北朝鮮に残しているので本心などいえるはずがない。家族や本人ではなく、国家の主権が侵害されたのだから、国が決断しなければならない事柄なのである。
結果として政府は「一時帰国」から「永住帰国」へと切り替えることを決めたが、それは政府の英断ではなく、被害者の家族たちと世論の果たした力が大きかった。五人が日本に帰国したのは十月十五日だったが、当初、外務省は十月二十九日から始まる正常化交渉までには五人を北朝鮮に帰すつもりでいた。
それを被害者家族の方々が、「このまま日本に永住させ、むしろ人質として置いてこられた子どもたちを呼び寄せることこそ筋である」と訴えたのである。
この主張に対し、われわれ超党派議員の「北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟(新・拉致議違)」も同意し、彼らを全面的にバックアップした。それをメディアがいろいろなかたちで取り上げ、「北朝鮮に帰すのはおかしい」という世論が盛り上がってきたのである。
これは世論というものを考えていない北朝鮮にすれば、まったくの誤算だっただろう。
同様に、これまで日本の世論を無視してきた外務省にとっても、予想外だったはずである。
さらに官邸では、安倍晋三官房副長官の功績が大きい。
官邸内でも福田官房長官などは拉致被害者五人を北朝鮮に帰すつもりで田中均アジア大洋州局長らと準備を進めていた。それに待ったをかけたのが、安倍官房副長官である。
安倍官房副長官は官房長官に対し、「北朝鮮に帰して、五人にもしものことがあったら誰が責任をとるのですか」と強く詰め寄ったそうだ。そこで政府も永住帰国の方針を打ち出したのである。
この「五人を永住帰国させる」という結論は、対北朝鮮外交の歴史のなかで日本が自分の主張を通した、きわめて珍しいケースといえる。
これまで日本は、北朝鮮のいうがまま右にも左にも動いてきた。その日本が北朝鮮に対して筋を通したことは、当然のこととはいえ、大いに評価してよい。
残る問題は北朝鮮にいる子どもや家族への対応だが、これは政府が責任をもって呼び寄せなければならない。
万が一、彼らに危害が加えられることがあれば(その可能性は小さいと思うが)、国際世論を味方につけて、断固とした対応をする必要があるだろう。 |