21世紀平沢の考えること

衆議院議員 平沢勝栄

   


『VOICE』12月号より

「一時帰国」という言葉の誤り

今回、拉致被害者のうち五人が「一時帰国」という名目であれ日本に帰国したことは喜ぶべきことである。

だが、そもそも指摘しておきたいのは一時帰国」という言葉のおかしさである。

拉致被害者は、凶悪な犯罪の結果として、北朝鮮に無理やり連れて行かれたのである。

本来あるべき姿は「原状回復」であって、それをあたかも里帰りのような「一時帰国」という言葉を使うべきではない。

拉致被害者の人たちは、犯罪の結果、一時的に北朝鮮にいただけにすぎないのである。二十四年という長い歳月がたっていても、そのことに変わりはない。そう考えれば、この五人をどう扱えばよいかは明白なはずだ。

政府の対応にも問題がある。
政府は当初、五人を北朝鮮に帰すかどうかを、本人や家族の意向を聞いて決めるといっていた。だが、これでは話にならない。

家族はともかく、本人たちは家族を北朝鮮に残しているので本心などいえるはずがない。家族や本人ではなく、国家の主権が侵害されたのだから、国が決断しなければならない事柄なのである。

結果として政府は「一時帰国」から「永住帰国」へと切り替えることを決めたが、それは政府の英断ではなく、被害者の家族たちと世論の果たした力が大きかった。五人が日本に帰国したのは十月十五日だったが、当初、外務省は十月二十九日から始まる正常化交渉までには五人を北朝鮮に帰すつもりでいた。

それを被害者家族の方々が、「このまま日本に永住させ、むしろ人質として置いてこられた子どもたちを呼び寄せることこそ筋である」と訴えたのである。

この主張に対し、われわれ超党派議員の「北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟(新・拉致議違)」も同意し、彼らを全面的にバックアップした。それをメディアがいろいろなかたちで取り上げ、「北朝鮮に帰すのはおかしい」という世論が盛り上がってきたのである。

これは世論というものを考えていない北朝鮮にすれば、まったくの誤算だっただろう。
同様に、これまで日本の世論を無視してきた外務省にとっても、予想外だったはずである。

さらに官邸では、安倍晋三官房副長官の功績が大きい。

官邸内でも福田官房長官などは拉致被害者五人を北朝鮮に帰すつもりで田中均アジア大洋州局長らと準備を進めていた。それに待ったをかけたのが、安倍官房副長官である。

安倍官房副長官は官房長官に対し、「北朝鮮に帰して、五人にもしものことがあったら誰が責任をとるのですか」と強く詰め寄ったそうだ。そこで政府も永住帰国の方針を打ち出したのである。

この「五人を永住帰国させる」という結論は、対北朝鮮外交の歴史のなかで日本が自分の主張を通した、きわめて珍しいケースといえる。

これまで日本は、北朝鮮のいうがまま右にも左にも動いてきた。その日本が北朝鮮に対して筋を通したことは、当然のこととはいえ、大いに評価してよい。

残る問題は北朝鮮にいる子どもや家族への対応だが、これは政府が責任をもって呼び寄せなければならない。

万が一、彼らに危害が加えられることがあれば(その可能性は小さいと思うが)、国際世論を味方につけて、断固とした対応をする必要があるだろう。

北朝鮮の「応援団」たち
そもそも日本は北朝鮮に対して、経済支援の停止など取りうるカードをいくらでも有している。にもかかわらず、政府や外務省は北朝鮮をできるだけ刺激しない「太陽政策」をとりつづけてきた。

これが根本的な誤りであった。

日本はこれまで、北朝鮮のご機嫌取りに終始してきた。北朝鮮からやってくる万景峰号に対しては、税関チェックや手荷物検査をほとんど行なわず、大量の現金や物資が積み込まれるのを黙認してきた。

朝銀信用組合から朝鮮総聯経由で北に不正な金が流れているのも見過ごしてきた。朝銀が破綻したときには、救済のために公的資金まで投入した。

去年五月に金正日の息子である金正男が不正入国したときも、彼が重要な外交力ードになると知りながら、十分な取り調べもしないまま丁重に追い返してしまった。こうなると、国益も何もあったものではない。

政治家にとって最も必要なのは、愛国心と国益に基づいて行動することである。このことが分からない政治家や役人が多いあまり、日本は「何をしても黙っている国」と侮られることになってしまった。

この外交姿勢を改めないかぎり、いくら日朝交渉をしたところで結果は同じである。

首相である小泉氏からして、北朝鮮への対応の仕方がわかっていない。拉致問題についても、小泉首相が関心を示したのはつい最近のことである。

今年三月、よど号ハイジャック犯の元妻が「有本恵子さんを拉致した」と証言したことで、小泉首相はようやく被害者の家族と面会をしたが、面会時間はわずか十分程度だった。国家の最高責任者の任務は国民の生命や安全を守ることである。拉致問題は何をおいても優先するべきだということを、小泉首相は理解していない。

最近こそ小泉首相も北朝鮮に強硬的な発言を行なっているが、これはアメリカの強硬な姿勢によるところが大きい。アメリカはここへ来て米朝協議で北朝鮮の核開発問題を持ち出すなど、北朝鮮への態度を硬化させている。したがって当初は「北朝鮮は誠意ある対応を見せている」などといっていた小泉首相も、認識を改めざるをえなくなったのである。

しかし望ましい変化として、かねてより拉致問題を重要視してきた安倍官房副長官が、対北朝鮮外交のリーダーシップをとるようになってきた。今回、被害者五人が日本に残ることが決まったのも、安倍官房副長官が家族から全幅の信頼を得て事を進めてきたからだ。その結果、日本もようやく「普通の国」として北朝鮮に応じられる態勢が整ってきたのである。

その一方で、鈴木宗男氏や土井たか子氏、田中均アジア大洋州局長、槙田邦彦シンガポール大使など、日本の政治家や外務省には北朝鮮や中国の言いなりになるのが日本の外交だと信じている人間がウヨウヨいる。

彼らのなかには、北朝鮮の金品も含めた懐柔策にはまってしまった人もいる。

国会議員をはじめマスコミや役人、学者など影響力のある人々のなかにも籠絡されている者は多い。

また、なかには過去の不正事件の証拠や女性問題を種に脅されて、北朝鮮の「応援団」になっている人もいる.また北朝鮮に対して批判的なことをいえば、朝鮮総聯から猛烈な抗議が来る。これを恐れて口をつぐんでいるマスコミ人もいる。

朝鮮総聯の内部には、日本の重要人物を籠絡するための専門部署もある。彼らによって籠絡された最たるものが、金丸信元副総理であり、鈴木宗男元代議士などである。

かつて拉致議連の会長を務めていた中山正暉氏に対しても、拉致された被害者の、こ家族の不信感は強い。会長就任後、北朝鮮を訪れたのだが、帰ってくると「拉致はあったかどうかわからない」と正反対のことを言うようになり、議連の活動も完全にストップしてしまった。

拉致事件が最初に認識されたのは一九七七年で、それから二十五年がたっている。国会で拉致が認められた一九八八年からでも十四年が経過している。政府はその間、ほとんど何もしてこなかった。

拉致事件を知らなかったからではなく、知らぬ顔をして北朝鮮に大量の援助を行なっていたのである。北朝鮮が犯罪国家であることが明らかになった現在、誰が拉致問題の解決を妨げたA級戦犯なのかを徹底的に調べあげる必要がある。

彼らの責任追及をしないかぎり、日本は同じ過ちを再び繰り返すことになる。

コメ支援について野中広務氏は「あれは正しくないことだった」と発言してい る。

だが、その程度の認識ですむ話ではなく、政治家なら間違った言動については進退を問われるべきである。これはいままで拉致問題を事実上、黙認してきた多くの政治家も同罪だ。

今回、拉致を北朝鮮が認めたことで、ようやく「北朝鮮族議員」の問題があぶり出されるようになった。これは小泉訪朝の一つの成果である。これを無駄にすることなく、族議員をはじめ、北朝鮮に盲従してきたマスコミや学者、役人たちを一掃せねばならない。
国民は応援外交を認めない
北朝鮮との国交正常化交渉を今後どう進めるかについては、拉致問題の解決を最優先事項とすべきである。

核開発やミサイル、経済支援の問題は、まず拉致問題を解決してから取り組むべきである。

「拉致問題の解決なくして国交正常化はない」というのは、森前総理のころから政府が主張してきたテーゼである。

拉致問題で北朝鮮が誠意ある対応を示すか否かは、核開発やミサイルといった問題で北朝鮮が信頼に値する国家か否かを試すリトマス試験紙でもある。

先日の米朝協議で北朝鮮は、アメリヵの追及によって核開発を行なっていることを認めた。これまで北朝鮮が「核開発はない」といってきたのは嘘だったのである。北朝鮮が交渉に値しない国であることが、これで明らかになった。

おそらくアメリ力は、現在係争中のイラク問題がある程度決着すれば、北朝鮮に対して強硬な態度に出てくるだろう。

日本が従来のような弱腰外交を続ければ、日米関係に大きな亀裂が入る。その点からも「拉致問題の解決なくして国交正常化はない」のである。

日本は交渉にあたり、帰国した五人から急いで情報を聞き出そうとしないことである。彼らが情報の宝であることは間違いないが、北朝鮮で暮らした二十四年間はあまりにも長い歳月である。北朝鮮に家族を残していることを考えても、無理に聞き出すのは禁物である。

彼らは横田めぐみさんに関する話はしても、残る七人の話はまったくしていない。ほかにも話したいことはあるだろうが、あらかじめ予定された話以外は、とても話せる状況ではないだろう。

逆に子どもたちや家族を日本に呼ぶことができれば、彼らも自由に話せるようになるはずだ。

そのときこそ警察には残る拉致被害者に関する情報を聞き出してほしい。拉致を認定された一四人のうち、残る八人も生存している可能性は高い。また、政府が認めた一四人以外にも拉致された人がいることは間違いない。 それをはっきりさせるうえでも、五人の証言は貴重なものになる。

さらに残る拉致被害者たちを救うにあたって、事を急ぎすぎるあまり、たんなる行方不明者まで拉致被害者と認定しないことが重要である。拉致事件は、加害者と被害者をなかなか特定できないし、行方不明者と拉致被害者を区別するのも難しい。

しかし、だからといって安易に拉致を認定すれば、それがたんなる行方不明者だとわかった瞬間、北朝鮮はここぞとばかり「日本の言い分こそでっち上げだ」というだろう。そうした隙を見せてはならない。

「帰国した五人の家族を日本へ呼び寄せる」
「残る八人についての全面的な真相解明」
「政府がまだ認定していない拉致被害者の全面的な真相解明」
という三点が満たされないかぎり、いくら国交正常化交渉を進めたところで北朝鮮を信用することはできない。

いま北朝鮮は食糧を含めた経済支援を喉から手が出るほど欲している。焦っているのは先方である。
だからこそ日本は、拉致問題が全面解決するまで、けっして支援を約束してはならないのである。

最も望ましいのは、金正日体制のもとでは国交正常化交渉を行なわないことである。工作員に対して拉致を直接指示したのは、ほかならぬ金正日である。

けっして金正日のいうように、末端の妄動主義者、英雄主義者が勝手に行なったものではない。独裁者の金正日が国内で処罰されることはありえないのだから、金正日体制が続くかぎり拉致問題が全面解決することはない。日本がそのような政権と関わりあう必要はない。

日本は金正日体制が崩壊するのを待ち、新体制に代わったところで経済支援も含めて国交正常化交渉に入るべきだろう。すでに金正日体制は崩壊寸前である。

かつて東ドイツが崩壊した最大の原因も、経済と政権の破綻であった。北朝鮮の経済はガタガタだが、金正日は何としても対外支援をとりつけて、政権だけは維持しようと考えているわけである。

そこに日本だけが経済支援を行なうことは、金正日体制を長引かせることに繋がる。

日本が行なってきた食糧支援や、朝銀への公的資金投入、さらには万景峰号から送られる現金や物資を止めてしまえば、金正日体制はすぐに崩れるはずである。これは国内で飢餓に苦しむ北朝鮮国民のためにもなる。

小泉首相は、今回の正常化交渉が北東アジア地域の平和と安定のために必要だというが、じつは金正日体制の崩壊こそが、この地域に平和と安定をもたらすのである。

そのためには、これ以上、外務省や北朝鮮族議員に好き勝手をさせてはならない。外務省はすでに、これから行なわれる正常化交渉のシナリオを描いている。

十月中に正常化交渉を始め、年内には食糧支援を行なおうというものだ。今度こそ世論の力で、これを食い止めなければならない。

外務省はこれまで、外交はプロ集団である自分たちが行なうものであり、多くの政治家や国民は関係ないと考えてきた。そして好き放題にODA(政府開発援助)を拠出し、北朝鮮などに応援外交を行なってきた。

だが、そのような外交を国民はもはや認めない。

外交は国民の理解と支持と協力なくして実行不可能になったのである。日本の対北朝鮮外交は、いま大きな曲がり角に差しかかっている。

ここで道を誤らないためにも、「拉致問題の解決なくして正常化交渉なし」の姿勢を崩してはならないのである。


(北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟へのご寄附について)

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